新しい能力概念としてのコンピテンシーと活用方法

日本総合研究所 小林秀夫

コンピテンシーとは何か

コンピテンシーは、アメリカ生まれの能力概念である。1970年代から、アメリカの大学教授のマクレランドらが中心となり、ハイパフォーマー(好業績者)はどのような行動特性を持っているのか、どのような性格特性を持っているのか、企業を実際に調査し、研究成果としてまとめたものである。日本総研では、アメリカ現地に実地調査したが、アメリカの大企業では半数以上がこの概念を人事制度に採用し、既に10年以上経過している。
導入理由としては、1980年代アメリカは大規模なリストラを実施し、1990年代如何に企業を変革していくかが企業のメイン課題であったが、その際戦略課題を実践する社員育成・動機付けに役立つコンピテンシーが注目・採用されたわけである。そして従来の固定職務記述書、職務給概念にとって変わった。
日本企業においても、従来の職能試験制度から成果主義への転換が課題になっている。有能な社員に焦点をあてた(従来の職能資格制度は平均的社員の育成、動機付けがメインターゲット)コンピテンシー概念が進行している成果・業績主義の弊害を防ぎ、適切な成果主義を実現するのに役立つと見なされた。では、コンピテンシーの概念定義と項目分類等を説明したい。

コンピテンシーの概念定義

コンピテンシーは、ハイパフォーマーの「能力、適性、姿勢、質素」等を総合化したものである(あるアメリカの企業は、企業の業績向上に役立つ捨身のスキルと行動と定義していた)。
コンピテンシーは、ハイパフォーマーの「観察された行動事実」をもとにモデル化されたものである。
コンピテンシーは、与えられたポジションの役割を遂行するための基準である。
コンピテンシーは、成果を創出するための行動の指針、成果を評価する際のプロセス評価、採用・発掘・育成等に活用される。

コンピテンシーの項目分類(グルーピング例)

コンピテンシーの項目分類

上記の分類に基づき、各職種、職位別に、詳細な個別のコンピテンシーが作成される。従来の職能要件とは異なり、具体的に行動レベルで作成されること及び評価段階(例:S,A,B,C,D等)別に基準があるので、評価がしやすく、納得性がありかつその後の社員の行動変容に役立つという特徴がある。次に具体的な作成例を例示したい。

コンピテンシーの作成方法とディクショナリー例

作成方法としては、BEI(Behavioral Event Interview)方式とディクショナリー(辞書)方式の2つがある。前者は、調査したい職種のハイパフォーマー(高業績者)を選んで、インタビューし、その行動特性を抽出する。そして、スタッフにより、中分類項目展開、項目別定義、評価段階別基準を作成する。 行動要件は、「〜している」という表現に、知識的内容は「〜を駆使する」という表現に、それぞれまとめる。後者は、ハイパフォーマー選択までは同じだが、ディクショナリー(各専門コンサルティング会社が作成するあらかじめ用意された一般的行動要件)を提示し、中・小分類項目を選び、その後、定義行動要件、評価段階定義等を自社の言葉に置き換えまとめる。ディクショナリーの例は表3の通りである。

コンピテンシーディクショナリー一般スタッフ例

上記のように作成することにより、具体的基準が作成できる。次に、人事評価制度との関連を示す。

コンピテンシーの作成方法とディクショナリー例

日本総研では、コンピテンシー評価を以下の図のように位置づけている。

役割評価、リザルト(業績)評価、コンピテンシー評価

現在の職種別、職位別役割を明確にした上で、目標管理に基づくリザルト(業績)評価とプロセスとしてのコンピテンシー評価を行うのが従来の曖昧な評価から脱却し、社員に行動の変容を促すとともに、納得性の高い賃金決定につながる。 運用面としては、基準等の整備とともに、目標管理制度を導入し、業務上の目標設定とともに、遂行すべきコンピテンシー目標(行動改善目標)を設定し、定期的にモニター(上司、本人自ら)し、期末に評価、面接し、賃金・賞与反映及び社員の行動変容につなげることになる。そのためには、上司、本人だけでなく、他の評価者も任命し、多面評価を行うこともよい。アメリカだけでは、社員ひとりに数名の評価者が任命されている。

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