人事部門アウトソーシング成功のポイントは、
自社の課題(抱えているリスク)の把握から

株式会社産研アウトソーシング 取締役社長 石川えい子

はじめに

アメリカのアウトソーシング企業の伸び率は115%とも125%とも言われているが、その中でも、最も導入率の高いアウトソーシング分野は人事部門のアウトソーシングと言われている。日本においても同じような傾向が見られるが、企業のアウトソーサー選択方法に、ここ数年変化が現われ初めている。アウトソーシングは導入したものの、失敗に終わった企業、また、更なる効率経営を目指し、アウトソーサー選択の第二段階に入った企業と、二極化されている。
当社も人事・労務の専門アウトソーサーとして、各企業のお手伝いをしているが、アウトソーシングを導入して成功したと断言される企業には、幾つかの特徴が見られる。

賢いアウトソーシング活用をされているとアウトソーサーからも感じることができる。とかく社長の鶴の一声で、「どこの企業もアウトソーシングを活用しているようだ、我が社も検討して、人件費削減、効率化をはかって、生産性を上げなさい!」と言われたという部長や取締役の方も以前には多く見られ、「何をどのようにアウトソーシングしたいのでしょうか?」と投げかけさせていただくと、「???」と、頭を抱え込む担当窓口の方もいた。 最近は、「当社は、こういうところに課題(問題)があり、こういうリスクが発生し(また、発生しそうなので)、この課題をこのように解決したい。したがって、こういう範囲でアウトソーシングの導入を考えたいが、何か良い提案をいただけないか?」という、依頼内容やアウトソーサーに求める価値や成果をハッキリと伝えていただく企業も以前に比べ多くなってきている。が、まだ漠然とアウトソーシングを検討している企業の占める割合も高いようである。
曖昧なアウトソーシング導入は、評価軸も成果軸も持っていないため、結果的には価値あるアウトソーシングの導入であるのかどうかも実際は判断していないことになる。

アウトソーシング費用は各社様々な料金体系であるが、いずれにしてもコストはかかる。各社の社員、管理職、役員、社長が日々努力し、汗をかき、作り出してきた売上であり利益である。その大切なお金をアウトソーシングコストとして頂戴するわけである。かりに数多くあるアウトソーサーから当社を選択いただいた場合は、「選んで良かった」と実感していただける会社となりたいと言う強い思いから、当社では次のような観点から「人事部門の仕事とは一体何をする仕事なのか?」ということを捉えている。
それは『「人材」を「人財」に育成し、経営の維持、拡大を図るための戦略構築部門としての役割を担っている部署』であるという捉え方である。
しかし、見方によっては、企業にとって最大のリスク要因は「人材」であるとも言える。人材を雇用したときからリスクが始まると捉えている経営者は、以外と少ない。この人材のリスクをどうしたら避けられるのか、頭をなやますところであり、一方でどの企業もはっきりと認識しないリスクを抱えている。
「雇用」という状況のなかで、発生するリスクを産研は、「人事リスク」と呼んでいる。この人事リスクを把握した上で、どう外部力を生かしながらリスク回避できる体制づくりを行うかということが、本来のアウトソーシングであり、成功のポイントと考えている。

リスクは人材を雇用したときからはじまる

「会社にとって最も重要なことは何か」と問われれば、それは「利益を上げ、事業を継続すること」となる。現在の経営環境では、継続を妨げ利益を失う「リスク」が様々な局面で問題になってる。
最近ではコンプライアンス、情報セキュリティなどがよく取り上げられているが、日本のほぼ全ての企業に共通しているにも関わらず、まだ、はっきりと認識されていないリスクがある。 それは、「従業員と雇用契約を結んでいる会社が必然的に持つリスク」であり、労働基準法の下、「雇用」という状況のなかで、発生するリスクである。これまで多くの経営者は、「従業員は会社の利益を目指して働いてくれるものだ」と信じて疑わなかった。が、従業員の意識は大きく変化している。終身雇用、年功序列など日本型の雇用制度が崩壊するのにともない、従業員が抱いていた会社との一体感はどんどん薄れている。

仕事と人生

従来の従業員の意識は、仕事があり、その上で人生を考えるというタイプが多く、今の若手従業員は、人生がありその中の仕事、人生の中の一部という感覚で仕事を捕らえる人が多い。 若手の従業員は10年後の自分のイメージができない。上司にも若手にも不満や不安が増している。そして、従業員は、「損をしたくない」という意識を強く持ち、会社との関係も一線を引きながら“自分の権利”に敏感になっている。会社が従業員から訴えられる可能性は高まりつつある。 時間外手当の不払いを従業員が訴えれば、その主張は認められ、会社は支払いを行わなければならない。たとえ、数百万円であっても、キャッシュフローにダメージを与え、他の従業員のモチベーションを損ない、評判を落とすことは、その会社にとって莫大な損失となる。一方で会社を存続させるためのギリギリの状態でもレイオフが難しいため、いま、雇用している従業員を再教育するしかない、ということもある。 これが順調に進まない場合は、利益も上がらない上に費用がかさみ、機会損失にもつながる悪循環である。「自分が一生懸命にやっていれば、従業員もついてきてくれる」と考えていると、思わぬところで足元をすくわれることになりかねない。現在の環境で、利益を出し続けるのは大変である。「人事リスク」を放置すると、(1)利益はあっという間に吹き飛ぶ (2)利益を生み出すことが組織としてできなくなる、という結果に陥ることになる。

人事リスク診断から自社の問題点を洗い出す

産研では、「人事リスク診断」というサービスを開始した。「人事リスク診断」は「法的リスク」、「マネジメントリスク」、「コストリスク」という3つの観点から、現状の課題を洗い出し、潜在する「人事リスク」への対策と優先順位を提案するというものである。
この診断では、いろいろなリスクがどのようなところに存在し、その大きさやインパクトはどのくらいかを、目に見える形で把握していただくことを目的とし、我々アウトソーサーの選択・評価や費用対効果を勝ち取って欲しいというねらいがある。 すでに多くのお客様から「自社の問題点に確信をもった」「こういったリスクがあることに驚いた」など評価を頂戴している。
測定は下記の図表のように「法」、「コスト」、「マネジメント」という3点の指標を用いて行われる。指標は各々2点に分岐し結果的に6点に分類されたグラフで表示される。

「法」、「コスト」、「マネジメント」の3指標

法的リスク(L)は、「会社が違法だといわれるリスク」と定義している。
L1:必須事項は、雇用契約書を交わす、就業規則必須記載事項など、従業員を雇用した際に“会社が”守らなければならない事項である。
L2:必要事項は、日常的にセクシャルハラスメント対策を講じる、勤怠管理基準を明文化する、など事前に対策としておけば法的に“会社を”守ることになる事項である。

コストリスク(C)は、「コストをコントロールしないことによって破綻するリスク」であり、“時間”の要素も含む。
C1:明確性は、コストを決めることができないリスクで、例えば、給与規程があっても手当の計算が不明であったり、規定がないために給与を決められないといったことが該当する。
C2:計画性は、コストコントロールが日常的または将来的に必要なものに対し、コントロールすることができないリスクをさす。例えば、時間外労働管理が不十分なために生産性に見合わない人件費となったり、近い将来払えなくなる退職金規定があるという状態のことである。

最後のマネジメントリスク(M)は、「会社と従業員が一体化していないリスク」で、会社の方針や意図が従業員に伝わらず、それによって組織が機能しなくなり、破綻をまねくリスクである。 法やコストが、それ自体の問題であることに対し、マネジメントリスクは「マネジントの現場」に内在する。会社と従業員の関係も、現場も変化しているなかで、マジメントの方法は変わっていないことが多い。上司が家族のつもりで発したひと言が訴訟の原因となることもある。また、大人として意見したつもりが、出社拒否につながる傷になることさえある。個人が会社を不信に思う度合いが強ければ強いほど現場での意思疎通は困難になる。
M1:危機的は、会社と個人の間でトラブルが起きたとき、場合によっては訴訟にも発展するようなリスクをさす。 前述の何気ないひと言が法的に問題なのに、上司自身が気が付かないでそのまま対応していると、大問題になるといったことが該当する。
M2:機能的は、会社の業績に影響力のある事項で、評価や面談など、従業員のモチベーションに関する日常的なマネジメントである。従業員を機能的に動かすことができなければ、業績は停滞し、事業の継続は困難になる。また、Mを契機としてLやCのリスクが顕在化することは珍しくない。
人事リスク診断の結果は、数値化した「人事リスク」と具体的なポイント、例えば「勤怠管理に対する管理職の理解の必要性」、「入退社時の説明の重要性」などを報告書にまとめ提供される。また、診断結果から得られた課題分析を基に、お客様に今、必要な具体的な対策を併せて提案している。
アウトソーソーサーの1社である当社がこうした診断をスタートした経緯は、事務処理を代行しているアウトソーシング だけでは、経営効果をもたらす率は低いと判断したからである。事務処理から見られる視点、および、その会社のデータから分析する視点の両方向から常に課題改善すること、つまり、 アウトソーシング機能とコンサル機能の両面がコラボレートして初めて、企業がアウトソーサーに求める、価値と満足を 提供できるものとの確信から生まれたサービスである。

おわりに

利益を生み出す活力のある組織であり続けるために、自社内でも項目を列記して診断されることをご検討ください。 きっと、驚かれるリスクの防止・発見ができることでしょう。 経営戦略手法の一つとして、どうぞアウトソーシングをご検討下さい。また、既に導入されているお会社は、より経営効果をもたらすアウトソーシングになるように、是非一度「人事リスク診断」を試してください。必ず大きな効果を 生み出すものと、私ども産研は確信しております。

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