事業承継は、20年に一度?

株式会社MELコンサルティング コンサルタント 與田和泉

「お伊勢さん」「大神宮さん」と親しく呼ばれる「伊勢神宮」は、「神宮」というのが正式な名称なのだそうだ。お正月には、毎年その時の総理大臣が参拝し必ずニュースで報道されている。知らない方はいないと思う。神宮とは、伊勢の宇治の五十鈴(いすず)川上にご鎮座の皇大神宮(こうたいじんぐう、内宮)と伊勢の山田の原にご鎮座の豊受大神宮(とようけだいじんぐう、外宮)の総称で、皇大神宮は皇室の御祖神である天照大御神をお祭りしている。また豊受大神宮はお米をはじめ衣食住の恵みをお与えくださる産業の守護神である。

この伊勢神宮では20年に一度「式年遷宮」が行われている。遷宮とは、神社の正殿を造営・修理する際や、正殿を新たに建てた場合に、御神体を遷すことで、式年とは定められた年という意味で、伊勢神宮では20年に一度行われている。

第1回の式年遷宮が内宮で行われたのは、持統天皇4年(690)のことで、それから約1300年にわたって続けられ、次回は平成25年に第62回目の「式年遷宮」が予定されている。この「式年遷宮」では、社殿や神宝類、ご装束類のすべてを一新する。皇室の大祭であると同時に、神宮にとっても永遠性を実現する大いなる営みといわれている。また、神宮の社殿は唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)という日本最古の建築様式であり、日本の文化のルーツを伝え、伝統技術を保存継承する上でも大きな役割を果たしている。まさに、伊勢神宮は20年に一度の「式年遷宮」により神社そのものの永遠性を確保している。形のあるものは、年月を経るうちにいつかは朽ち果ててしまう。社殿が朽ち果ててしまう前に新しい社殿を造営し、御神体をそちらに移って頂く。多少乱暴な言い方になってしまうが、企業がゴーイング・コンサーンを目指して活動している姿の手本にならないだろうか?

事業承継とは、まさしく企業がゴーイング・コンサーンを目指し、時代や環境が変化し続ける中で企業というものを永遠に継続して存在していくものである。そのためには社会にとって、お客様にとって、社員にとって、取り引き先にとって、価値ある存在として生き残り続けることが必要である。これは企業規模に関係なくその企業の掲げる「経営理念」を実現し続けるための活動と言えないだろうか?大企業も中小企業も時代や環境が変化し続ける中で、その取り扱う商品やサービスが変化することはあると思うが、その根底にある「企業理念」や「経営理念」を実現するために必死になって活動を続けている。

昨年のリーマンブラザーズ破綻をきっかけに世界中を巻き込む「金融危機」が吹き荒れている。
現在はまさに嵐の中で各企業が必死になって生き残りの道を模索し、様々な手を打ってきている。生産・在庫調整、設備投資予算の凍結や大幅削減、非正規社員の削減や社員の希望退職、経費のゼロベースでの見直し、そして給与・賃金のカット等が報じられている。それだけの対策や手を打っても、トヨタ自動車でさえ営業利益が赤字に転落するという見込だという。まだまだしばらくは企業が生き残るための各種施策が続きそうである。今回の一連の各企業の対応や動きは緊急避難的・臨時的なものと考えたいが、この対応もタイミングを見誤り後手後手になれば、企業の存続に黄色信号や赤信号がついてしまうかも知れない。

企業にとっての御神体はまさしく、「経営理念」であろう。日本には規模の大小は別として100年、200年と社会にその存在を認められ生き残っている企業は多い。生き残っているということはその「経営理念が正しいもの」であるということである。時代、時代で繁栄した企業であっても経営理念が正しくなければ、その存続は期待出来ない。事業を承継する経営者、役員が率先して時代と環境が変化していく中、その企業が生き残り、勝ち残るために「経営理念」を基本に事業戦略、事業組織、事業領域を変化させ、経営目標を明確にし、変化に対応できる企業体質と企業風土を育ててきた結果であろう。「経営ビジョン」という形あるものが壊れる前に、新しい経営ビジョンを作成し、その「経営ビジョン」が全社員に共有され、実践されないと事業は継続できない。事業承継は創業者から後継者への、そしてその次の後継者へと永遠に続くものである。企業にとっての正殿はまさに「経営ビジョン」であろう。

伊勢神宮の場合には神社の正殿は20年毎に新たに立て直されるが、その建物は1300年前の様式を厳格に守り承継されているのかも知れない。企業は「経営理念」という御神体を「経営ビジョン」という正殿で守りながら、事業を承継しその永続性を保たなければならないのである。従って企業における事業承継は20年に一度というわけには行かない。事業承継は、企業を取りまく時代や環境が変化する中、御神体である「経営理念」を守るための正殿「経営ビジョン」を随時見直しながらそれを実践していく活動そのものである。中小企業の創業者からその子息である後継者への事業承継も、その一つの過程であろう。どちらにしても事業承継は大変なことである。

我々は、時代の環境がめまぐるしく変化する中、1社でも多くの企業、特に中小企業の方々の業績が向上しその企業が永遠性を保ち発展していくこと。そしてその企業の事業承継のお手伝いが出来ればと考えている次第である。
(参考文献:伊勢神宮ホームページ)

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