組織活力度調査の事例とその研究

株式会社MELコンサルティング チーフコンサルタント 佐藤秀幸

はじめに

本稿では、2008年に実施した製造業に対する組織活力度調査の活用事例および私が考察したことを述べます。
弊社の組織活力度調査は、行動心理学で有名な米国のリカート(1903−1981)の参画型組織システム論を基本とした調査で、組織活力および社員のモラール、満足度を4変数、17カテゴリー、51(あるいは85)の質問で測定しています。
管理監督者用のアンケートと一般社員用のアンケートがあり、双方に同じテーマについて問いますが、立場によって答え方に差異があるかどうかも調査します。
例えば、管理監督者には「会社の経営方針や目標を十分に部下に知らせているか」と質問し、一般社員には「会社の経営方針や目標を十分に上司から知らされているか」と質問します。
詳細は、弊社「組織活力度調査(OD調査)」をご覧ください。

組織活力度調査実施の背景

いわゆる失われた10年後の戦後最長と言われる経済成長の下、製造業は旺盛な設備投資とともに、外国人労働者や派遣社員・パートを活用し、国内工場の生産高を上げてきました。
しかし、その過程では、過度な残業、人員増加、コミュニケーション不足等により現場で働く人々のモチベーションが低下し、生産効率が低下し始めていました。
そうした背景の中で、疲弊した組織の活力を向上するための施策を導くために、組織活力度調査を実施しました。

組織活力度調査をして明らかになること

組織活力度調査を実施して明らかになることとして、弊社が今までに実施した全製造業の平均と比較して組織活力が高いか低いかが分かります。また、部門格差、世代格差、男女格差、雇用形態格差など、さまざまな切り口による組織活力の比較検討ができます。
例えば、現場経験が少ない若い世代と現場経験が豊富でもITに弱いベテラン社員との間で、仕事に対する意識ギャップがありました。非正規社員や外国人労働者に対する若手監督者層の指示命令が一方的になりがちで、現場社員のモチベーションが下がっていました。若手の現場監督者の多くは、急増する設備ラインに対応するために業務スキルの優位性だけで配置された場合が多く、対人スキルの訓練を受けていない場合がほとんどでした。
部門別に集計すると、管理者のマネジメント力が顕著に組織活力となって表れることがあります。特定部門におけるありとあらゆる評価項目が、全社平均と比較して大幅に低下している場合などです。組織活力度調査を行って初めて特定部門に問題があることが明らかになり、アンケート調査結果に基づいてヒアリングを行なう過程で部門の特殊事情が明らかになるようなケースもあります。

組織活力度調査の活用例

組織活力度調査の結果が経営意思決定に活用されたケースは、少なくありません。部門内メンバーのモチベーションが下がっているのを気にしていた経営者が、組織活力度調査の結果を見て、自分の観察が正しかったことを確信し、リーダー交代の意思決定を下したケースがありました。高くなりすぎた非正規社員比率の弊害が浮き彫りになり、正社員比率を高める意思決定を行なった会社もありました。社員の自由回答から過剰な労働時間が想像以上に社員の個人生活に負担をかけていたことを知り、労働時間削減施策を強化した経営者もいました。組織活力度調査を毎年実施することにより、社員の声を集め経営方針の効果を確認している会社もありました。

組織活力度調査結果の傾向

私が今回実施した製造業3社の組織活力度調査では、2つの共通する傾向がありました。
一つは、職場での「指示命令」が管理者と一般社員の双方とも評価が高い反面、「チームワーク」、「制度システム」、「コミュニケーション」、「職場の雰囲気」についての項目が相対的に低くなっていることでした。
その背景には、2008年上半期までの輸出依存型製造業では、海外需要の拡大により操業度が急上昇し、現場のコミュニケーションは、必然的に指示命令が中心になり、双方向的なコミュニケーションが不足していました。
また、操業度の拡大に邁進した結果、既存の評価・処遇制度・情報伝達ルールを、組織拡大のスピード・人材の多様性に適応させることができずにいました。残業続きの社員は、お互いに十分な意思疎通ができず、一般社員も管理職もそのことについて不満を感じていました。
もう一つは、現場監督者層の部下指導力に対する自信が失われてきていたことです。現場監督者は、プレイヤーとしての仕事を一人前以上にこなしながら、嘱託、パート、外国人労働者など、非正規雇用者の要望にも対応しなければいけません。目標生産量を確保するためのローテーション調整(休日出勤等)は、たいへんな心労を伴います。対人関係調整能力に自信がない監督者層は、いかに業務に精通していたとしても、部下との人間関係で悩みが多かったのではないかと推測されます。

組織活力度調査に相関係数を用いた分析結果

最後に、社員満足度を構成する会社への満足、仕事への満足、上司への満足それぞれに対してどのような組織改善が有効であるか、相関係数(R)を活用して調べました。その結果、以下のようになりました。

・会社への満足に対して相関が高いカテゴリー【グラフ1】

    会社への満足と相関が高いカテゴリーベスト5は、
    第1位:仕事への満足(R=0.63)、第2位:評価承認(0.58)、第3位:制度システム(0.56)、第4位:信頼関係(0.54)、第5位:職場の雰囲気(0.53)であった。

図1 会社への満足に対して相関が高いカテゴリー

・仕事への満足に対して相関が高いカテゴリー【グラフ2】

    仕事への満足に相関が高いベスト5は、第1位:会社への満足(R=0.63)、 第2位:仕事への態度(0.63)、第3位:信頼関係(0.60)、:第4位:能力開発:(0.59)、第5位:チームワーク:(0.56)であった。

図2 仕事への満足に対して相関が高いカテゴリー

・上司への満足に対して相関が高いカテゴリー【グラフ3】

    上司への満足に相関が高いベスト5は、第1位:リーダーシップ:(R=0.78)、第2位:統制:(0.75)、第3位:信頼関係:(0.73)、第4位:評価承認:(0.71)、第5位:コミュニケーション:(0.69)であった。
    ベスト4までが0.7以上の強い正の相関を表してしており、製造現場における部下から期待される上司像を考える意味で興味深い結果となっている。

図3 上司への満足に対して相関が高いカテゴリー

また、会社への満足度を効果的に上げるには、会社への満足度との相関が高くかつ評価点が低くなっているカテゴリーに注目するのが定石です。そのような視点からカテゴリー別評価点と会社への満足度との相関をグラフにしました。

・カテゴリー別評価点と会社への満足との関係足度と相関【グラフ4】

    会社への満足度を効果的に上げるには、会社への満足度との相関が高くかつ評価点が低くなっているカテゴリーに絞って対策を立てると効果的である。今回の製造業3社合計では、制度システム、評価承認、職場の雰囲気が課題として注目される。

図4 カテゴリー別評価点と会社への満足との関係

今回実施した各製造業平均に関する限り、制度システム、評価承認、職場の雰囲気の各テーマを改善すると会社への満足度を効果的に向上させることができるのではないかと考えています。

おわりに

今回実施した組織活力度調査はまさに繁忙期に行われたサンプルとして価値があると思います。その特徴としては、時間的な余裕がなく、職場の雰囲気が極度に緊張し、工場生産性が低迷することです。また、研究開発や営業などの前工程部門がわりと元気がよく、生産現場や物流の後工程部門では疲弊感が漂うという構図です。営業などの前工程では好業績に支えられ、モチベーションが上がります。一方、後工程部門では迫り繰る納期との戦いで、ストレスが溜まりやすいのだと思います。
100年に一度と言われる、金融危機に端を発した突然の景気低迷は、トップマネジメントに落雷にでもあったかのような衝撃を与えています。今まで好業績でハイテンションになっていた営業部門が焦燥感を持ち始めました。工場現場の社員は、時間的な余裕を持てるようになりました。このような時に、繁忙期にはできなかった若手監督者層の能力開発に時間を費やすことができるようになると理想です。しかし、最近の大企業による人員削減計画の発表が増加してきていることを考えると、時間的余裕もはかなく思われ繁忙期が懐かしく思われることでしょう。
この度の景気低迷に関して、個人的には、中小企業にとって人材確保と育成のチャンスが巡ってきたと考えています。大企業による人員削減により、中小企業にとっては有能な人材を確保するチャンスです。今まで忙しすぎて社員の能力開発がおろそかになっていた製造業にとっては、組織を再構築するチャンスでもあります。組織活力度調査で明らかになった組織の弱みを改善するのにちょうどいいタイミングであると感じています。また、大きな上昇波が来る前に・・・・

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