職場におけるメンタルヘルスケア

株式会社MELコンサルティング 常務取締役 渡辺晴樹

厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持推進のための指針」(メンタルヘルスケア指針、平成18年3月策定)に基づき、職場におけるメンタルヘルス対策を推進している。
本指針は、労働安全衛生法70条の2第1項の規定に基づき、同法第69条第1項の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針として、事業場において事業者が講ずるように努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置(以下「メンタルヘルスケア」という。)が適切かつ有効に実施されるよう、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について定めたものである。
しかし、経済・産業構造が変化する中で、労働者の仕事に関する不安、悩み、ストレスなど、職場における環境は依然改善されていないのが現状である。「メンタルヘルスケア指針」について、重要部分を紹介する。

メンタルヘルスケアの基本的な考え方

メンタルヘルスケア指針によれば、メンタルヘルスケアの基本的な考え方について、次のように説明している。
『事業者は、自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」を策定する必要がある。また、その実施に当たっては「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われるよう関係者に対する教育研修・情報提供を行い、「4つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、職場復帰のための支援等が円滑に行う必要がある。さらに、メンタルヘルスケアを推進するに当たっては、4つの事項に留意しなければならない。 @心の健康問題の特性、A労働者の個人情報の保護への配慮、B人事労務管理との関係C家庭・個人生活等の職場以外の問題。』

4つのメンタルヘルスケアの推進

メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要である。なお、事業者は、メンタルヘルスケアの推進の実務を担当する事業所内メンタルヘルス推進担当者を産業保健スタッフ等から選任するよう努めることになっている。「4つのケア」が適切に実施されるよう、事業所内の関係者が相互に連携し、以下の4つの取り組みを積極的に推進することが効果的であるといっている。@メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供、A職場環境等の把握と改善、Bメンタルヘルス不調への気づきと対応、C職場復帰における支援。

ラインによるケア

上記の4つのメンタルヘルスケアの2番目に列挙されている 「ラインによるケア」では、事業所内の管理監督者にとって、特に重要と思われる「管理監督者による部下への接し方」について、解説している。

「いつもと違う」部下の把握と対応

ラインによるケアで大切なのは、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気づくことである。「いつもと違う」という感じをもつのは、部下がそれまでに示してきた行動様式からズレた行動をするからである。その例を次に示す。

  • 遅刻、早退、欠勤が増える
  • 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
  • 残業、休日出勤が不釣合いに増える
  • 仕事の能率が悪くなる。思考能力・判断力が低下する
  • 業務の結果がなかなかでてこない
  • 報告や相談、職場での会話が無くなる(あるいはその逆)
  • 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
  • 不自然な言動が目立つ
  • ミスや事故が目立つ
  • 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする

「いつもと違う」部下に対して、管理監督者は職務上何らかの対応をする必要がある。また、その背後に病気が隠れている可能性があるので、病気でないことを確認する必要もある。しかし、病気の判断は管理監督者にはできない。これは、産業医もしくはそれにかかわる医師の仕事である。事業場によっては、保険師、看護師、心理相談担当者、産業カウンセラーまたは臨床心理士が産業医との仲介役を果たす形をとることもある。

部下からの相談への対応

職場の管理監督者は、日常的に部下からの自主的な相談に対応するよう努めなければならない。そのためには、部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整えることが必要である。また、長時間労働等により過労状態にある部下、強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した部下、特に個別の配慮が必要と思われる部下に対しては、管理監督者から声かけをし、以下の対応も必要である。

  • 話を聴く(積極的傾聴)
  • 適切な情報を提供する
  • 必要に応じて事業場産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すなど

メンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援

管理監督者が、「復職した以上きちんと仕事をしてほしい」と考えることは、気持ちとしては自然である。けれども、数ヵ月にわたって休業していた人に、いきなり発病前と同じ質、量の仕事を期待するのは無理であることも明らかである。復職者は、「職場では自分はどう思われているのだろうか」、「職場にうまく適応できるだろうか」、「病気がまた悪くなるのではないだろうか」など、様々な心配をしながら出社する。そうした復職者の気持ちを受け止めることが、管理監督者には望まれる。「上司はわかってくれている」と感じることができれば、復職者の職場での緊張は大幅に軽減される。管理監督者と復職者のそのような関係は、同じ職場で働く他の部下たちの緊張を和らげる効果を持っている。

労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト

厚生労働省では、平成14年2月に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し(平成18年3月に全面改定)、時間外・休日労働の削減などとともに、一定時間以上の時間外・休日労働を行わせた場合の健康管理措置の徹底について周知を図っている。
過重労働による健康障害を防止するため、働く人それぞれの疲労蓄積度を判定するためのチェックリストとして、平成16年6月に、労働者本人による自己診断のためのチェックリスト及びご家族により労働者の疲労蓄積度を判定できるチェックリストを作成し、公表している。

【労働者の疲労蓄積度チェックリスト/厚生労働省】
・労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト
・家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト

※参考資料
「労働者の心の健康の保持推進のための指針」(厚生労働省、平成18年3月策定)

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