企業復活の取り組みに学ぶ

株式会社MELコンサルティング シニアコンサルタント 太田義則

本稿では、厳しい経営環境における『生き残り戦略』として、ある企業様が取り組んでこられた内容の一部をご紹介し、皆様の今後の経営にお役に立てればと思います。

「輸送機器下請け事業はもとより、この1年間住宅設備メーカー各社への『営業と技術のペアセールス』による当社の技術を活かした新規受注に早めに取り組んだおかげで、この程度の落ち込みで済みました。やっと、従来の7割まで仕事が戻り、昨年12月の月次決算では黒字となりました。今年に入って1月〜2月は厳しかったですが、3月以降から少しずつ持ち直しました。でもまだまだ順調とは言えず苦しいです」と語る年商63億円の企業のA社長。

「我々、工作機械の販売会社はたいへんです。しかし、今思えば、攻略市場の転換戦略を早く打ち出してよかったです。以前は成長戦略として、輸送機器の企業城下町を対象に市場開拓を積極的に進め、成長してきました。ところが、2008年秋以降の受注は急転直下でした。それから、攻略市場の見直しを全社員で検討し、この時代でも安定成長する業界はどこかを探索し、次なる成長戦略を食品・医薬業界と設定し顧客ターゲットを絞り邁進してきました。今はその業界売り上げが32%を占めるほどになりました」と語る年商38億円の企業のB社長。

2008年秋以降の米国発の世界同時不況から1年半が経過しましたが、いまだに厳しい経営環境が続いております。どの企業の経営者の方々も、存続成長発展に向け、たいへんな努力をされていることでしょう。しかし、この1年半の間、何をやってきたか、何に取り組んできたか、その取り組み内容が、企業間の業績格差を生み出していることも事実です。

『生き残り戦略』の大前提となるのは、"全社員の結束強化と持ち味を活かす"ことであり、"厳しい環境の時代こそ、全社員間のよい人間関係が組織を守り企業を発展させる"ことです。これらをベースにこの2社が取り組まれた内容を以下にご案内させていただきます。

1.“経営革新”の基本コンセプト
「利益ある成長をいかに持続させるか!」選択・集中・差別化

    • (1)現有の経営資源を最大活用すること
    • (2)安定利益が確保できる"ビジネスモデル"の構築
    • (3)SWOT分析を末端社員まで含め抽出させ、現状を全社員に把握認識させる
    • (4)トップの役割として「何があっても全社員を守る」と誓約し、全社員巻き込んでこの危機を乗り越えるための協力支援を願う
    • (5)社内に"経営革新"プロジェクトを立ち上げて展開する

2.プロジェクトの展開

  • 第一ステージ:"経営革新"プロジェクトの立ち上げ
  • 第二ステージ:現状分析
    • 【その1】現有経営資源の分析
      • @技術の洗い出し・・・人的リソース(有資格者)、機械設備とその稼働率、外注先とその関係政策、特許等知的財産権の内訳、製品群(受注背景と生産対応)、生産技術および生産管理→当社の強みの抽出
      • A@から見る"テクニカルツリー"の作成→技術を活かし何ができるか
      • B取引先分析・・・直接訪問による顧客動向の把握、自社との取引実績とその理由、期待要望・提案の有無など→当社の強みの抽出
    • 【その2】全社員を対象に公募:個人情報上、本人了解の範囲を公開願う
      • @人脈・・・血縁、地縁、学縁、知縁、友縁、ネット縁、の抽出と活用
      • A自己申告・・・私がやりたい仕事、提案したい仕事
      • B論文の公募・・・「私が考える新生○○会社づくり」
    • 【その3】財務分析による現状分析と改革の方向付け
    • 【その4】【その3】より環境分析・予測の現状把握(SWOT分析)と改革の方向づけ
      • @環境分析・需要予測の現状と将来
      • A既存顧客の受注動向・予測から全社・部門・製品別・市場別売上高の算定
      • B自社の強み、技術力の評価
      • CSWOT分析と改革の方向付け
  • 第三ステージ:経営革新計画の策定
    • 【その5】事業領域(ドメイン)の設定・・・企業ドメイン、事業ドメイン
    • 【その6】経営ビジョンの確立・・・社員に夢のイメージ化
    • 【その7】基本戦略の設定
    • 【その8】経営変革課題・目標・計画の設定
  • 第四ステージ:戦略実行の組織化
    • 【その9】戦略実行の組織化
    • 【その10】経営革新シナリオの完成

今回のA社とB社の取り組みを通じ、次の3点を共通的な教訓として整理しました。

10:27 2010/08/171.全社員を巻き込むことによりセールス効果が発揮された
特に、現状分析【その2】にある、社員各自のもつ人脈からの会社紹介について、全社員に、「わが社の魅力を理解しての会社紹介」ができるまでのわが社の沿革、経営理念とその背景、製品紹介とその特徴、機械設備、業界での位置づけなどを教え込みました。 その結果、改めて自社の魅力(こんなことができるんだ、すごい!)を痛感し、入社2年目の女性社員は疎遠であった伯父を訪ね、会社を紹介し、その後、営業部長が再訪問され、仕事に結びつくことができました。

2.全社員がSWOT分析による現状把握を経験し、前向きな危機感を認識できた
「厳しい時代である」「苦しい経営が続く」と経営者の方々から聞こえますが、社員との認識のズレは大きく、危機感をそれ程感じていない状態ではないでしょうか。その違いは、経営者の皆様は、会社の現状をデータで把握し、そのデータの意味することが理解できる知識をもっているからです。そこで、現場の視点で、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威の分析)をさせ、環境の変化、自社の状態をデータ化し、分析したことにより、前向きな危機感から、具体的な行動が生まれました。

3.自社の強みを抽出し再確認する際には、営業、生産、開発、技術、管理の各現場メンバーの意見を聞くことが大切である。
「真の強み」は現場の第一線メンバーが一番よく知っています。ものづくりに携わる想い、楽しみ、喜び、難しさの全てが製品・商品に魂として入魂されているものです。その取り組みの中から「これは絶対である」という、唯一絶対の強みが必ずあるはずです。そこに着眼が求められます。

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