中小企業の営業社員の育て方

常務取締役 山中宏美

はじめに

私は、1978年に経営コンサルタント業界に入りました。最初の15年間は営業主体の業務に、以降、今日に至るまで経営コンサルタント業務と営業業務、およびマネジメント・経営業務を兼務しています。一時は独立して、一人で営業活動をしたこともあります。現在も現場の第一線で営業活動を続けています。
お陰様でこれまで様々な業界からお仕事をいただき、私自身の受注件数は2,000社を超えました。不況と言われて久しいですが、私が経営コンサルタント業界の門を叩いてからの時代をひもとくと、以下の通り順調な受注環境の時期はバブル景気の頃くらいしかなかったように思います。そう考えれば、どんな時代背景でも安定的に受注し続ける力をもつことが、営業社員に求められる重要なポイントだと思います。32年間で新規の企業様・団体様に限っても10億円以上の受注をいただけたことは私の仕事に対する自信の確かな基盤になっています。

1979年 第2次オイルショック1995年 1ドル79円75銭
1985年 プラザ合意1997年 消費税5%へ
1986年 円高不況1992年〜2001年 失われた10年
1987年 バブル景気開始2002年 景気拡大
1989年 消費税導入2007年 サブプライム問題
1991年 バブル崩壊2008年 リーマンショック

前回は、「中小企業の業績をダメにする営業・良くする営業」と題してまとめてみました。今回は、その実践編として「中小企業の営業社員の育て方」について述べたいと思います。

こんな営業社員を育てよう

前回も述べましたが、中小企業は、ないないづくしです。大企業のようにブランド力・アフターサービス力・卓越した技術力などありません。そうしますと、

  • 「ないない」を禁句とする
  • 条件が悪くても燃える人材、挑戦する人材を採用・育成する
  • どんなときでも、現状肯定のできる個人・集団をつくる
  • 基本的には最低限での販売促進費で戦える個人・集団づくりをする

これらが中小企業に求められる姿勢の基本となります。
そうしたことを理解した上で、営業社員には、以下のことを理解し、実践することが求められます。

  • お客様の欲しているニーズわかる
  • お客様のお金の出所がわかる
  • お客様のためになることを喜びとする

営業社員を育てる時の基本(1)
- お客様との信頼関係づくり -

営業社員にとって大切なことは、お客様との信頼関係です。では、お客様との信頼関係を構築するにはどうしたらよいでしょうか?ポイントは以下の3つです。

ポイント1 お客様との接触頻度を上げる

余程のことがない限り、わずか1、2回の訪問でお客様との信頼関係は構築できません。お客様との関係の深さは接触頻度と比例します。ですから、できるだけ数多くお客様と面会することが大切です。

ポイント2 約束を守る

「約束を守る人=信頼される人」と言ってもいいでしょう。信頼ははじめてつくった時より、失った信頼を取り戻すことのほうがはるかに難しいのです。約束は守って当たり前という意識を常に持ち、信頼関係に余計な溝を作らないようにしましょう。

ポイント3 第一印象

意外とこの点に気づいていない営業社員が多いように思われます。まずは、見た目でお客様に警戒されたり嫌われたりしないことです。お客様に好印象を与えるような、話し方・表情・髪型・服装などを心掛けましょう。

当たり前といわれるかもしれませんが、以上の3つのポイントを実践していくことで、お客様との距離は縮まり、信頼関係を築き、仕事をスムーズに進むことができます。

営業社員を育てる時の基本(2)
- 商品知識だけではなくお客様のニーズを知る -

商品説明が出来ないから営業成績が上がらない・集客できないという人がいます。そういう人は、しっかり説明できる人に協力をお願いし同行してもらうとよいでしょう。
メーカーなどがしてしまう失敗に、「自社の商品を完璧に理解できないと営業はできない」と考え、市場に営業社員を送り出さないということがあります。もちろん、商品の理解も大切ですが、まずはお客様のニーズを把握することです。実際は、営業活動をしてお客様へヒアリングをした時に気づくことですが、入社時にお客様のニーズの大切さを先輩社員から新人営業社員に学ばせることは重要です。

営業社員基礎能力は入社3年以内に修得すべき

営業社員の基礎能力とは、次の3つです。

  • わが社の社会へのお役立ちの理解
  • 第一印象で好印象を与えるスキル
  • 約束を守る行動

私の経験上から言いますと、これら営業社員の基礎能力が3年以内に身につかないとトップ営業社員として活躍できることが難しいと思います。なぜかと言いますと、4年以上になると、中途半端な商品知識・専門知識が身についてきますので、お客様のことを考えるというよりも、まずはそれらの知識を前面に出した営業社員になる可能性が高いからです。

お客様から見て、

  • 自分のニーズをわかってくれない
  • 見た目の印象が悪い
  • 約束を守らない
  • 中途半端な技術、商品を得意げに説明される

ことになるわけですから、お客様が信頼して購入してくれるはずがありません。大企業のようなブランド力・充実したアフターサービス等の別の安心感があれば、お客様が求めるような営業ではなくてもカバーできるかもしれません。何回も言いますが中小企業は、ないないづくしですから、大企業のようなブランド力・アフターサービス力は得にくいものです。

おわりに

最後に、営業社員研修講師としての私の経験および、私自身の実際の部下育成の経験からの留意点を述べます。営業基礎能力養成時で難易度が高いのは、好印象を与えるスキルです。学生時代演劇部や、放送部などで訓練した人は別として、意識してそれを鍛えてきた人は大変少ないのが現状でしょう。しかし、これもスキルのひとつですから、訓練すれば上達します。普段の態度や姿勢もしかりです。
「約束を守る」に関しては、できる人はできますが、できていない人を直させることは時間がかかります。これも時間の「約束をする」という習慣づくりと、それを徹底して「時間管理をする」習慣づくりを励行させます。その約束や決め事を紙に書いてもらい目に付くところに掲示しておき、やり続けてもらいます。
以上のことを研修で、ロールプレイングなどをすることにより体験・体得してもらいます。その後、社内で毎日反復継続して体得してもらいます。そうすれば、必ず身につきます。是非、若手の営業社員に実施してみてください。

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