キャッシュフロー改善の考えかた
〜利益と資金の違いを知る〜

西野税理士事務所 西野光則

資金は存続の条件

企業が成長発展するためには一定水準以上の利益を計上し、その利益の再投資を行いながら業容を拡大していく、つまり利益(儲け)は企業が成長するための必要条件と考えることができる。ところが資金(お金)が無いと企業は成長するどころか存続することさえできない。 このように考えてみると、資金は企業存続の条件と考えることができる。企業が成長することも大切だが、それ以上になんとか企業を存続し生き抜いていかなければならない。厳しい時代においては、利益(儲け)以上に、資金(お金)が大切だということがわかる。

資金繰りに苦しむ経営者

ではお金はどのように増減するのだろうか。この解答が見つからなければ、お金を増やすことができない。ビジネスマンの多くがこの理由を知らない。経営者は感覚的に理解しているが、なぜかという論理的な理由がわからないので、部下に伝えることができずにいる。 そして、結果としていつも1人で資金繰りに苦しんでいる。部下が理解し、全社的に取り組まなければこの悪循環から逃れることはできない。

頭の中はその日払いの日雇い労働者

ほとんど全てのビジネスマンは、日払いの日雇い労働者と同じように考えている。1日働くと1日分の日当をもらえる。自分たちのビジネスも売上た分だけ、毎日現金回収できると思っている。そんなことはない。 「失礼な・・・」、というかもしれないが、儲かった分だけ、現金が増えるということは、売上も、仕入も全て現金決済行われていることと同じ状態だということである。商売上かならず売掛金、買掛金があることをすっかり忘れている。

簡単な3つの事例

10万円の手持ち資金で開業した。1年間で100万円の売上と95万の仕入だけなら、儲けは5万円となる。
[1]すべて現金取引で行われれば5万円の儲けは現金で増える。
[2]売上はすべて売掛金になり、支払は現金だったら どうだろうか。大好きな売掛金(いつもらえるかわからない)が100万円。借入金が85万円(95万の仕入代金を支払うために10万円の手持ち資金と85万円を借金で調達)となっている。儲けは売掛金になっている。
[3]売上は現金で、仕入代金をまったく支払っていない場合は逆になる。現金が110万円(手持ち資金10万円と現金売上 100万円の合計)。大嫌いな買掛金95万円あるが、現金は110万円もある。利益以上に現金があることがわかる。
どれがいいだろうか?[3]に決まっている。

儲かってもお金がない一番の理由を考えてみる

3つの事例の違いを考えてみると良くわかる。儲かった=お金があるということは、全て現金で取引が行われた場合に限る。ところが現実の社会は、売掛金、買掛金がある。頭の中は現金経済(日払いの日雇い労働者の経済)だが、現実のビジネス世界は売掛金、買掛金が存在する信用経済になっている。 この違いがわからずにビジネスを行うと、儲けたら必ずお金があると思ってしまう。儲け(利益)は、お金(資金)を増加させる重要な要素の一つであるが、儲けとお金は一致するとは限らない。

キャッシュフローを改善する6つの方法

原則1:利益を出す
これが一番のキャッシュフローの改善方法である。利益を計上することが一番確実なキャッシュフローの改善方法である。1.売上を増やす、2.原価を下げて粗利益を増やす、3.活動原価を下げる(販売管理費)ことで確実に利益を計上する。しかし、後述するように、計上した利益は確実に資金となって企業にリターンするような方法を講ずる必要がある。

原則2:売上債権(売掛金+受取手形)を減らす
売掛金を減らす。売上を減らして売掛金を減らしてはならない。売上を維持しつつ売掛金を減らせなければキャッシュフローは改善されない。受取手形を減らすことも同じことになる。

原則3:在庫(棚卸資産)を減らす
在庫を減らす。商品、製品、材料、仕掛品、貯蔵品、半製品等の在庫を減らすことでキャッシュフローは改善される。

原則4:買入債務(買掛金+支払手形)と売上債権バランスを考える
買掛金を増やすとキャッシュフローは改善される。しかし、今日の経済状況を考えた場合、買掛金の支払を延ばすと信用不安の原因になる。むしろ、売上債権、在庫を圧縮しながら資金繰りを改善する。改善された資金状況を考慮しながら仕入先への支払を早めることでコストダウンしたり、有利な条件で仕入れができるようにすべきである。

原則5:遊休固定資産を処分する
過剰な遊休固定資産がキャッシュフローを圧迫している。取得した固定資産が利益を生まない状態で放置されていると、この固定資産を購入するための借入金の負担だけが生じてくる。損を承知で早期に遊休固定資産を売却することで、ある程度長期借入金が返済でき、金利の負担も軽減される。

原則6:資本政策
自己資本が増加することでキャッシュフローは改善する。自己資本を増やすには、原則1で述べた利益を出す以外に、1.増資をする、2.配当を抑制し、役員賞与を我慢してもらうというように利益の社外流出を抑えてゆく方法がある。特にストックオプションや従業員持株制度等の活用すれば、キャッシュフローを改善しながら企業への貢献意欲や忠誠心を高めることができる。

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