ビジネスゲームによる研修効果の一考察

マーケティング本部 越山修

はじめに

ビジネスゲームとは、仮想企業の経営体験を通じて、生産や販売といった企業活動をゲーミングシミュレーションとして体験し、プレイヤーはビジネスゲームを通じて、現実に近いビジネスプロセスを体験する学習手法である。ビジネスゲームの起源となるゲーミングシミュレーションは、軍事演習がもとになってはじまった学習手法であり、ビジネスゲームとして広く認知されるようになったのは、1950年代に欧米のビジネススクールで活用されてからといわれている。
ビジネスゲームのような体験学習は「Learning by doing(することから学ぶ)」といわれるように、自己の実際的・体験的活動から事実や法則を習得し、新しいスキルや態度、考え方を獲得する学習形態である。大学や企業において、マーケティングや仕入れから製造・販売までの企業活動の学習を考えた場合、OJTでの学習環境を整備するのは場所・時間・費用等が困難なため、この解決方法としてビジネスゲームが有効な手段として認知されている〔白井 2001〕。

導入事例

本稿では、企業研修においてビジネスゲームを活用し、そのアンケートから研修効果を考察する。導入事例として、あるメーカーの新入社員(営業・管理系3割、技術系7割)研修の一講座として実施したものを紹介する。 ビジネスゲームは、弊社で企画・開発した『@be-pro』を使用する。ゲームのシナリオは製造業(売上高26億円、従業員200名)の新経営陣として、経営を引き継ぎエクセレントカンパニー目指すというもの。同一条件の経営環境の下、意思決定によって導き出された業績の格差が、自己資本の差となり優劣を争う。スケジュールは通い2日間(正味時間15時間)で、4回の意思決定と2度の株主総会を実施した。

ビジネスゲーム画面

2日間の研修の後、アンケートを実施すると、下記のようなコメントが寄せられた。

  • 【肯定的】
  • ・ビジネスゲームから、何をやるか明確にすること、成果を上げるためのバランス、成功を得る段取り等の重要な要素を学びました。
  • ・目標を立てても、いざ、決定をするとなるとあせって目先しか見えてなかったのがよくなかったと思う。
  • ・長期を見通すこと、バランスを考えること、数字の中身を考えること、大事なことはシンプルだが、実際は難しい。
  • ・会社のしくみがよくわかりました。
  • ・ビジネスゲームを体験することにより、経営者の視点から会社を見ることができた。
  • ・自社の決算書が出たら、自分で目を通してみようと思った。
  • ・自分の欠点がすごく明確になったので、勉強になりました。仕事には直感よりも、数字における分析が大事だと思いました。
  • 【否定的】
  • ・将来経営にかかわる気が皆無なので、どうも気が入りませんでした。
  • ・各機能のつながりがよく分からず、何から手をつければいいか分かりません。

考察

ビジネスゲームの感想は他の研修と比べ、多様なコメントが寄せられる。これは研修の目的を予め設定してはいるものの、受講者の知識やバックグラウンドが異なるため、“気づき”が多様な観点から述べられるからである。研修を企画する事務局としては、画一的な成果を期待するものの、概して一筋縄にいかない。 本来の目的は、“企業経営のしくみを学ぶ”や“経営数字を身につける”、“コミュニケーションの大切さを学ぶ”というねらいを掲げるものの、講師のファシリテーション能力や、受講生の取り組み姿勢、グループのメンバー構成、教室の雰囲気など、多くの要因により、コメントも変化することも忘れてはならない。

おわりに

企業研修は明確な目的を掲げて、受講生に同様な研修効果を望むのが常である。ところが、前述のように、ビジネスゲームの効果を定量的に評価し、ひとつの方向に収束させることは不可能ではないが困難である。しかし、他の研修と異なり、ビジネスゲームを体験した者の多くは“印象深い研修”として捉え、有益な“気づき”があったと振り返る。
昨今の人材育成は、これまで以上に即効性が重視され、かつ費用対効果をシビアに算定する傾向にある。しかし、ヒトづくりは決して一朝一夕で成し得るものではない。自社の10年先を見据えた、将来を託す人材の先行投資として、会社経営を体験することも有意義ではなかろうか。

参考文献
・U.S.Knotts.(1998),Teaching Strategic management with a business game.
Simulation & Gaming, 28(4), 377-394.
・白井宏明.(2001),『ビジネスモデル創造手法』,日科技連出版社.
・新井潔,出口弘,兼田敏之,加藤文敏,中村美枝子.(1998),『ゲーミングシミュレーション』,日科技連出版社.

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