EQの概念をさらに押し広げたSQ「社会性の知能指数」
株式会社MELコンサルティング 常務取締役 渡辺晴樹
EQの伝道者であるダニエル・ゴールマンが新たな知見に基づき、EQをさらに広げたSQ「社会性の知能指数」という概念を発表したので、それを紹介する。
EQについて
EQとは、Emotional QuotientまたはEmotional Intelligence Quotientの略で、「感情知能指数」と訳され、「自分自身と他の人達との感情を理解し、自らもモチベートし、自らの感情と他の人達との諸関係を効果的にマネジメントする能力」と一般的に定義されている。EQ能力の概念の創始者であるピーター・サロベイ教授は、EQ能力を「人生をより良く生きるために必要な能力」と明解に定義している。
日本では、心理学者ダニエル・ゴールマンの著書「Emotional Intelligence」(邦題『EQ−こころの知能指数』講談社刊:1996年)がきっかけでEQが広まった。著書の中で、「従来、IQの高いことがビジネスに成功するための条件と考えられてきたが、IQは成功のための必要条件ではあるが十分条件となり得ない。成功するには、これに加えて高いEQが必要とされる。」と主張した。
SQとは
ダニエル・ゴールマンは、「脳科学の進歩により、脳内に分泌される化学物質がリーダーとフォロワーの行動に大きな影響を及ぼしている」という新たな知見に基づき、EQをさらに広げたSQという概念を発表した。SQとは、Social Intelligence and the Biology Quotientの略で、「社会性の知能指数」と訳され、「職場内の意欲や他者の能力を引き出すもので、対人関係や社会性に関わる神経回路と内分泌系に支えられている」と解説している。
SQの概念の新しさは、脳科学の裏付けに基づく点にある。特に、脳内細胞(ミラー・ニューロン、紡錘細胞、オシレータなど)は、SQと深く関係しており、リーダーシップや対人関係力を改善するにあたっては、これらの働きをふまえたアプローチが有効であると考えられている。ミラー・ニューロンは、イタリアの科学者たちがサルの脳を観察していて、偶然に発見されたものである。脳には他者の行動を模倣する、鏡のような神経細胞が散在していることが初めて明らかになった。ある人のしぐさから、その感情の動きを察知すると、ミラー・ニューロンの働きにより、われわれ自身の心の中にもそれと同じ感情が湧きあがってくるという。
組織にとってミラー・ニューロンは、大きな意味を持っている。たとえば、無愛想でユーモアに欠ける上司の下では、メンバーのミラー・ニューロンは刺激を受けない。一方、よく笑い、おおらかな雰囲気づくりができる上司の下では、この細胞が活性化するため、メンバーたちも笑顔を見せることが多く、チームの一体感も高まるといわれている。
SQの測定ツール
ダニエル・ゴールマンによれば、SQの高いリーダーと低いリーダーとでは、業績に大きな開きがあることが証明された。全米で事業展開する大手銀行のリーダー層を対象に調べたところ、自己認識や自己管理といったEQよりも、SQの方が毎年の業績との相関が高いことが判明している。
リーダーのSQを判定するためには、ESCI(Emotional and Social Competency Inventory)という測定ツールが使われる。これは、SQに関する7項目にしたがって、リーダーとしての能力を見極めようとするものだ。この測定ツールは、従来のEQ理論とヘイ・グループが20年かけて収集したデータに基づいて開発されている。
SQの測定ツール
1.共感力
- 自分と経歴の異なる人たちの動機づけ要因を理解できるか。
- 他人のニーズに敏感か。
2.思いやり
- 相手の言葉に熱心に耳を傾け、その胸の内を想像できるか。
- 他人の気分を推し量ろうと努力するか。
3.組織理解
- グループや組織の、文化や理念を重んじているか。
- 人脈の重要性を理解し、組織の不文律を承知しているか。
4.影響力
- 他者を議論に巻き込み、彼らの利害に訴えかけることで、相手を説得できるか。
- キー・パーソンから支援を取りつけられるか。
5.人材育成
- 他人へのコーチやメンターに、思いやりの心を忘れることなく、自分の時間と熱意を傾けているか。
- 他人にフィードバックし、「ビジネスマンとしての能力開発に役立った」と感謝されているか。
6.啓発
- 心揺さぶるビジョンを描き、グループとしての自信を高め、前向きな感情を育んでいるか。
- 人材の力を最大限に引き出しているか。
7.チームワーク
- チーム・メンバー全員に、意見や提案を求めているか。
- チーム・メンバー全員を後押しし、協力を促しているか。
注:『EQを超えてSQリーダーシップ』DIAMODハーバード・ビジネス・レビュー、2009年2月号引用