中小企業こそ営業社員を鍛えよう
こんな営業社員はいませんか?
中小企業の業績をダメにする営業・良くする営業

常務取締役 山中宏美

どんな業界、どんな中小企業でも会社の顔は営業社員です。会社を代表してお客さまに接して自社の製品・サービスを提供し、対価をいただきます。多くのお客さまの場合、その購買動機は会社への信用や信頼です。その信用や信頼を高くするのも低くするのも、直接お客さまと接する営業社員にかかっています。

大企業と中小企業を比較した場合何が違うのでしょうか。
もちろん規模が違うわけですが、大企業には、その歴史と実績に裏付けされた信用・ブランドがあります。これは今出来上がったものではなく、経営資源が限られた「ないないづくし」の中小企業時代から先輩たちがコツコツと積上げてきた信用です。そして信用やブランドをさらに強固にし、現在の会社・商品・サービスをよりよく見せることができる潤沢な広告宣伝費・販売促進費があります。また、人材面からみても、世間一般的に素養の高いと思われる人材を惹きつける魅力・吸収力があります。一方の中小企業はそれに伍して戦わなければならないわけですから、並大抵の努力では成果が出ませんし、同じ方法では勝ち目はありません。

技術力がある中堅企業の営業マンのケース

かつて私は、ある分野で日本にひとつしかないという製品を持つ中小製造会社に在籍していたことがあります。現在は、ニッチ市場でオンリーワン製品を持って収益性の高い優秀な中堅企業に成長しました。
オンリーワン商品を作り上げたその「技術力」には感服しますが、一方で、この会社の営業姿勢や営業スタイルといった「営業力」については残念ながら学ぶべき点はあまりないようです。オンリーワンで競争力のある製品を扱っているため、普通の業界の中小企業の参考にはならないのです。
営業は強気の姿勢で「売ってあげる」的な感覚があり、その結果、営業活動面においても対応に工夫が足りないところが多々あります。これが続けば多少のおごりも出てきます。他社との競争意識も少なく、社内での競争意識や気迫もあまり感じられません。
しかしそれでも売れているのです。
もしもこの企業が、営業力強化に本腰を入れ、個々の意識改革・能力アップが図られれば、今の2〜3割は販売力がアップするのではないでしょうか。

大手企業出身の営業マンのケース

また4年ほど前のことになりますが現在ではすっかりトップセールスに成長した指導先の営業社員であるAさんの事例をご紹介しましょう。
ある大企業でトップセールスだったというふれ込みで入社してきた営業社員Aさんは転職してきて3年ほど経っていました。当初は自信満々で鼻息も荒かったのですが、2年経っても3年経っても並以下の成績しか残せません。当然Aさんも面白くないようで、いろいろ考えて営業しているようです。しかしなかなか思うような成果は上がっていません。
Aさんは大企業時代、その「のれん」とテレビCMで名を馳せた商品を引っ提げて「元気と勢い」だけで売り切ってきました。時には押売り的な強気な販売もやっていたようです。まさしくブランド力と充実した広告宣伝や販促策のお陰で売れたパターンです。
もとの会社の関係者が言うには、Aさんは元気と勢いの強気な営業で販売実績ではトップになったのですが、営業マナー面やアフターサービス面でのクレームがお客さまから相次ぎ、その後会社としも企業イメージを悪くしていて困っていたとの情報も耳にしました。

そんなAさんの営業手法を、経営資源が限られた「ないないづくし」の中小企業へ持ち込んだのですから、うまくいくはずがありません。
商品知識はない、相手企業との人間関係を築けない、業界での認識度・知名度は低い中で、営業マナーを知らない強引さだけの営業スタイルを貫くのですから、お客さまの注文が来るはずがありません。
その後、私が営業部門のテコ入れをすることになり、Aさんとじっくり面接したところ、売れない理由として彼が述べていたことは以下のようなことでした。

  • 商品に魅力がない・古臭い
  • 会社の知名度が低すぎる
  • 販売促進用のパンフレット等がかっこ悪い、魅力がない
  • ホームページに魅力がない
  • 社内インセンティブ(評価や賃金制度)の魅力が低い
  • 自分の担当エリアは先輩たちがかつて廻っていたエリアでいい企業が残っていない

いずれもAさんがかつて在籍した大企業での経験や、現在の競合他社と比較してですが、非常にネガティブな印象をもっているのです。
ほかにも、過去の契約先でも「当時の自社への評価が低いので今さら営業できない」という理由もありました。たまたま数社で先輩がつくった過去のクレームを聞きつけたことで、先輩が訪問して受注に至っていない企業や、受注したが継続できなかった企業には「何らかのトラブルが発生したはずだ」と決め付けて訪問しなくなったそうです。確かにAさんが指摘しているようなことは大企業に比較すれば弱い面でしょう。

しかしこの会社には、その同じ条件で十分に新規開拓をし、また既存顧客も拡大して好業績の同年代の営業社員Bさんがいるのです。彼は大企業出身ではありませんが同様に中途入社の社員で順調に成果を伸ばしています。Aさんと何が違うのか、私は同じくBさんとも面接をしてみました。
Bさんは「たいしたことはしていませんよ」といいながらも、いろいろと話を聞きだすと、以下のような特徴があることがわかりました。

  • 訪問頻度・回数が多い
  • お客さまの要望に対する対応が素早い
  • お客さまからの要望を聞きだす、聴き方がうまい、質問を準備している
  • ちょっとしたリクエストでもすぐに対応し、そこから発展させて次につなげている
  • 基本マナーである、話し方・御礼の仕方、立ち居振る舞いをマスターしている
  • 服装や髪型に好感がもてる
  • お礼の仕方が早くてマメである
  • お客さまからの意見(場合によってはクレームのようなものも含めて)を絶えず前向きに捉えて対応している
  • 「わが社」と言う時の顔が輝いており、また社章を絶えずつけている
  • 上司や他部門など社内リソースの活用の仕方がうまい
  • 営業同行を1〜2回してもらったら、同様の条件・状況であれば本人が対応している

いかがでしょう。Bさんの発言や態度からAさんとのいろいろな違いを感じることが出来ますよね。
同じ状況下、与えられた材料のもとでも、随分と捉え方が違うようです。私はまさしくこのBさんのような姿勢や活動こそ、中小企業が業績向上を図る上で必要となる営業パターンだと思います。
私は、大企業出身で「ないないづくし」に慣れていないAさんと何度も面談を重ね、大企業との違いや、中小企業のやりがいなどを説明し、どんなアプローチや商談が業績向上の鍵となるのかを話し合いました。そして何度も話をするなかでようやくAさんは納得してくれました。その後も試行錯誤があったようですが、今ではBさんともども立派なトップセールスとして活躍してくれています。

何か一つ自信が持てる得意技を身につけよう

「ないないづくし」の中小企業の営業が大企業(トップ企業)との戦いを行うとき、「組織戦」に持ち込まれたらどうなるでしょう。人的資源・物的資源両面で勝てるわけがありません。
言い換えれば、経営者としては早くこの組織戦に持ち込めるような組織としての対応力がある企業に成長していくことが目標です。
しかしそれまでは、前例のオンリーワン企業を除けば、個人の意識、個人の能力を高めることによる一人ひとりの戦力充実化が重要です。

その戦力の充実化のためには、まずは何か一つ、人より勝る(自信が持てる)得意技を持つことです。
その得意技を駆使し、繰り返していくことによって、いろいろな場面に遭遇し、工夫をしながら営業スキルを一つ一つ継ぎ足し、全方位型に進化していくのです。
同時に社内リソースも活用します。特に出来ている人、すばらしい成果を上げている人の技術を活用する機会をできるだけ多くつくり、学び、吸収することです。
しかし、社内リソースの活用といってもいつまでも他人の技術に頼っていていけません。あくまでも社内リソースの活用は自分にとっての学びの場として捉えたいものです。
その「場」を作れたところまでは自信を持てばよいのです。そう考えれば、出来ないことではないでしょう。

中小企業こそ営業社員を鍛えよう

さて、ここからが今回のようなケースにおける問題提起への対応策です。
「ないないづくし」でしかもオンリーワン商品を持っていない中小企業において、営業力を強化し、業績を高めていくためには、営業社員に対して以下のようなことを徹底していくことが求められます。

  • 「ないない」を禁句とする
  • 条件が悪くても燃える人材、挑戦する人材を採用・育成する
  • どんな時でも、現状肯定のできる個人・集団をつくる
  • 基本的には最低限の販売促進費で戦える個人・集団づくりをする

いかがでしょう。
皆さんの会社で実行できそうですか。「そんなのムリだよ」と経営者・幹部がおっしゃれば会社はさらに弱体化していくでしょう。
右肩上がりで需要拡大間違いなしの業界ならいざ知らす、経済成長率がようやく好転した程度の日本経済、国内市場で生きていくなら、営業力の強化は多くの業界であてはまる重要課題であるはずです。ましてや大企業でなく、中小企業でいえば、お客さまの情報をしっかりと捉え、自社の商品やサービスによってしっかりとお客さまのお役に立つ、課題を解決できる提案ができる営業力の強化は不可欠のテーマです。
営業社員の採用と育成に、あらためて注力していただくことがこれからの中小企業の受注競争・販売競争に生き残り、勝ち残っていく鍵なのです。

営業・マーケティング戦略

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